That's the Way Love Goes
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静けさで殴り込んだヒット曲
1993年、ジャネット・ジャクソンの新曲がラジオから流れてきたとき、多くのリスナーは戸惑ったと言われている。前作までの彼女は、社会派のメッセージと激しいダンスビートで突っ走るアーティストだった。ところがこの「That's the Way Love Goes」は、テンポを落とし、ベースがゆったり脈打ち、彼女の声はほとんど吐息のように柔らかい。盛り上げる気がまるでない。けれど、その「盛り上げなさ」こそが武器だった。曲は全米ビルボードで8週連続1位という記録を打ち立て、結果的に彼女のキャリアでも屈指の大ヒットになった。攻めるのをやめた瞬間に、最も深く刺さったのだ。
ジャム&ルイスと「大人になった」ジャネット
この曲は、ミネアポリスの名プロデューサー、ジミー・ジャム&テリー・ルイスとの共作で生まれた。彼らはアルバム『janet.』全体で、ジャネットを「お兄ちゃんマイケルの妹」でも「社会派の闘士」でもなく、自分の欲望を自分の言葉で語る一人の女性として描き直そうとしたと言われている。土台にはアイズレー・ブラザーズの古いソウル曲のギターフレーズが敷かれ、温かくレトロな質感が漂う。日本のリスナーにとっては、90年代のいわゆる「渋谷系」やR&Bブームと時期が重なり、当時のクラブやカフェの空気にすっと馴染んだ一曲として記憶している人も多いのではないだろうか。FMラジオの夜の番組で流れると、街の温度が少し下がるような感覚があった。
歌が語っているのは「抵抗をやめる甘さ」
歌詞が描くのは、複雑な物語ではない。語り手は、目の前の相手にゆっくりと心を開いていく。焦らず、構えず、ただ「これが恋というものなんだよ」と相手に、そして自分自身に言い聞かせる。ポイントは、そこに不安や駆け引きがほとんどないことだ。恋に落ちるのは怖いことでも戦いでもなく、自然に身を委ねればいい――そんな成熟した安心感が全体を包んでいる。ジャネットは大声で愛を叫ぶのではなく、すぐ隣で囁くように歌う。だからこそ聴き手は、まるで二人きりの部屋に招き入れられたような親密さを感じる。激情ではなく、信頼。それがこの曲の核にある感情だ。
90年代R&Bの空気を決定づけた一曲
「That's the Way Love Goes」は、その年のグラミー賞で最優秀R&Bソングを受賞し、90年代のスロウなR&Bが向かう方向を示した道標のような存在になった。叫ばず、囁く。打ち込みのビートにソウルの温度を混ぜる。このバランス感覚は、後の多くのアーティストに影響を与えたと言われている。ミュージックビデオでは、ジャネットが仲間たちとくつろぎながら新しいシンガー候補にこの曲を聴かせる、というリラックスした設定が描かれ、彼女の「肩の力が抜けた自信」をそのまま映像にしていた。
今も色あせない理由
慌ただしい時代だからこそ、この曲の「急がなくていい」というメッセージはむしろ新鮮に響く。テンポを落とし、声を抑え、相手をじっくり感じる――その姿勢は、通知に追われる今のリスナーへの静かな処方箋のようでもある。恋の始まりの、あの柔らかくとろけるような時間。それを音で封じ込めた数少ない曲として、「That's the Way Love Goes」は世代を越えて再生され続けている。
もっと深く味わう
🎧 音に浸る
- janet. アルバムを聴く — このシングルだけでなく、アルバム全体が「大人になったジャネット」の物語。流して聴くと曲順の意図が見えてくる。
- ジミー・ジャム&テリー・ルイス プロデュース作品 — 同じ職人コンビが手がけたR&Bの名曲群。あの温かいビートの正体がわかる。
- 90年代R&B コンピレーション — この曲が生まれた時代の空気を、まとめて浴びられる選曲集。
📚 物語を追う
- ジャネット・ジャクソン 回想録・伝記 — 兄マイケルの影から、自分の声を見つけるまでの道のり。この曲の背景が立体的に見えてくる。
- ジャクソン・ファミリー関連書籍 — 音楽一家の重圧と栄光を知ると、彼女の「囁く自由」の意味が深まる。
🌍 場所を訪ねる
- ミネアポリス 旅行ガイド — ジャム&ルイスのスタジオがあった、あのサウンドの故郷を旅する一冊。
- アメリカ音楽都市めぐりガイド — ソウルとファンクが育った街々を辿ると、この曲のルーツに近づける。
🎸 自分で体験する
- ホームレコーディング入門機材 — あの囁き声のような親密なボーカルを自分で録ってみたくなったら。
- R&Bヴォーカル練習本 — 叫ばずに伝える歌い方を学ぶための一冊。ジャネット流の引き算を体で覚えよう。
🎵 この曲を聴く
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ジャネット・ジャクソンが社会派の作風から大人のR&Bへ転換した理由は?
前作『Rhythm Nation 1814』では社会問題を扱う激しいダンスナンバーで存在感を示したが、アルバム『janet.』では自分の欲望や恋愛を自分の言葉で語る一人の女性として描き直そうとしたとされる。兄マイケルの妹や社会派の闘士という枠を離れ、より個人的で官能的な領域へ踏み込んだことが、この転換の背景にあると言われている。「That's the Way Love Goes」の囁くような歌い方は、その新しい大人の自由の宣言だった。 -
ジミー・ジャム&テリー・ルイスが90年代R&Bに与えた影響は?
ミネアポリス出身のこのプロデューサーコンビは、打ち込みのビートにソウルの温かい温度を混ぜ込むバランス感覚で知られ、ジャネットの主要作品を長年にわたり手がけた。叫ばず囁き、ファンクの質感と洗練された音作りを両立させる彼らの手法は、90年代スロウR&Bの方向性を示した道標になったとされる。後続の多くのアーティストにも影響を与えたと言われている。 -
この曲が8週連続1位を取れたのはなぜ?当時のチャート事情を教えて。
ゆったりしたテンポと吐息のような柔らかいボーカルが、当時のラジオやクラブの空気に自然と馴染み、繰り返し聴きたくなる親密さを生んだことが大きいとされる。1993年当時、ビルボードHot 100はラジオでのオンエア量とシングルのセールスを組み合わせて集計しており、この曲は両面で強さを発揮したと言われている。攻めるのをやめた静かなアプローチが、結果的に最も長く支持される形になった。