SONGFABLE · 1970

ABC

THE JACKSON 5 · 1970 · DETROIT, USA

TL;DR: 一見ただの「子ども向けの楽しい歌」に見えて、その実体はモータウンが緻密に設計した恋愛指南ソング。学校で習うアルファベットや数字に「君に恋を教えてあげる」という年上めいた口説きを重ね、11歳のマイケル・ジャクソンが歌うことで初めて成立した奇跡のバランスの曲。
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学校の授業が、まさかの口説き文句に化ける

「ABC」は表向き、アルファベットや1・2・3の数字といった、誰もが幼い頃に習う基礎を歌っている。ところが歌詞をよく追うと、その「初歩の初歩」を恋愛の比喩にすり替えているのが見えてくる。簡単すぎて教科書を放り出してしまった「君」に、今度は僕が恋の手ほどきをしてあげる——そんな構図だ。教室と恋愛という、本来交わらない二つの世界を重ねた言葉遊びこそが、この曲を単なる児童ソングから抜け出させている。

モータウンという「ヒット工場」が生んだ少年たち

The Jackson 5 はインディアナ州ゲイリー出身の兄弟グループで、デトロイトの名門レーベル、モータウンと契約してデビューした。「ABC」は1970年発表、デビュー曲「I Want You Back」に続くシングルで、全米チャート1位を獲得。当時マイケル・ジャクソンはまだ11歳ほどだったと言われる。

楽曲を手がけたのはモータウン社内の制作チーム「The Corporation」。これはベリー・ゴーディ率いる作家集団で、流れ作業のように緻密にヒットを組み立てたことで知られる。日本のリスナーにとっては、この「工場でヒットを量産する」モータウン方式が、後の歌謡曲やアイドル制作の手本になったという文脈で語られることが多い。ジャクソンズの来日公演やマイケルの絶大な人気を思えば、日本との縁は決して浅くない。

数字とアルファベットに隠された「教える/教わる」の駆け引き

歌詞の核は、知識の比喩で愛を語ることにある。語り手は「君は学校の勉強はもう卒業した、でも恋についてはまだ一年生だよ」と相手をからかいながら誘う。ABCや123のように一見やさしいものほど奥が深い、という逆説を恋愛に当てはめ、「だから僕についておいで」と差し出す。

子どもが歌うからこそ、この口説きはいやらしくならず、むしろ無邪気な背伸びとして愛らしく響く。声変わり前のマイケルの澄んだ声と、兄たちの掛け合いが、教室のチャイムのように軽快にテンポを刻む。難しい言葉を一切使わず、誰もが知る記号だけで「恋を覚える楽しさ」を表現してみせた点に、作家陣の職人技がある。

ポップスの教科書として残った一曲

「ABC」は、同時期のビートルズ「Let It Be」を押しのけて1位に立ったという逸話でも語られる。以来、CMやアニメ、映画で繰り返し使われ、世代を超えて「最初に覚えるソウルナンバー」のような位置を占めてきた。マイケル・ジャクソンというスーパースターの原点としても、研究され続けている。

シンプルな構造、覚えやすいサビ、誰でも一緒に口ずさめる数字とアルファベット——この設計図は、後のポップスやアイドルソングが何度も参照することになる。

今なお色あせない理由

人が何かを「教え、教わる」関係に芽生える胸の高鳴りは、時代が変わっても消えない。スマホで何でも検索できる今でも、誰かに手取り足取り導かれる感覚には特別なときめきがある。「ABC」はその普遍的な感情を、子どもでも歌える言葉だけで封じ込めた。だからこそ、半世紀以上たっても結婚式の二次会やパーティーで自然と人を踊らせる。難しいことは何ひとつ言っていないのに、聴くたびに少しだけ恋がしたくなる——それがこの曲の魔法だ。


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